って横へ走っても何日――その間の地理学上、よし絶食しても幾日の間――そういうことの予算をちゃんと胸に畳んで走りもし、逃げもし、変通もしていたのですが、今回は、なにしろはじめての奥州路、その用意をするにも、しないにも、その機会と材料とを絶対に与えられない縄抜けの身となって、着のみ着のままで仙台領を脱走して来たのです。
燧道具《ひうちどうぐ》と附木《つけぎ》だけは、辛うじて船頭小屋からかっぱらって来たが、それ以外には何物もない。
常ならば懐中に少なくとも七ツ道具を忍ばせている。その七ツ道具は、多年の経験によって洗練研究しつくされている独特の七ツ道具で、それが商売物にもなれば、旅行用にもなる。
よしまた、そんなものがなくとも、人間の部落を成す土地をさえ見つけ出せば、七兵衛の本職として、そこから無断で、自由に、相当のものを徴発して来るのは、袋の中のものを取り出すと同様の能力を与えられている身だが、他のものを盗まねば生きられぬという浅ましい本能よりも、盗むべき何物もない荒涼さの方がたまらない。
ついに日が暮れました。
足の七兵衛は疲れるということを知らないが、腹の七兵衛は、餓えるという
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