駒井が黙っていると、気取って山出しのおれを軽蔑している――柳田の頭は、ようやく反感から僻《ひが》みの方へ傾いて、
「おれは断然、この船長は好きになれない!」
柳田の頭へ来た印象はこれです。同時に、
「田山白雲氏に対しては、一見、先生と言って尊敬するに堪えるが、この若い毛唐まがいの船長なるものは、おれの口から進んで追従《ついしょう》をいう気にはなれない」
こういったような空気が湧き出して来たのを、お松が早くも見てとりました。
百四十六
そんなような初対面の空気のままで、柳田平治は船長室を引下りました。
それから船中を往来するごとに、柳田の不快はことごとに増すばかりでした。不快といっても、特に理由があるわけではない、誰もこの男を特に冷遇したり、嘲笑したりする人なんぞは一人もあるのではないが、平治が船の中を歩くと、行き逢うほどの人が、その長い刀を見て変な目つきをする。それが八分の冷笑を含んでいるかのように、平治には受取れてならない。
単にこの長い刀を眼の敵《かたき》にするのみではない、自分の歩きっぷりがギスギスしているといって、あとで指差して笑っているような気
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