を抜かれて、
「ナニ、つかまるよ、田山白雲先生は豪傑だから、直ぐ捉まえて縛って連れて来るよ、安心し給え」
こう言うと、この幻怪なる少年が、いよいよ承知しませんでした。
「君、それは違うよ、田山先生は、マドロス君とお嬢さんを捉まえに行ったのは本当です、あの二人は駈落者《かけおちもの》なんだから、それを捉まえて逃さないように、場合によっては縛っても来ようけれど、七兵衛おやじは捉まえに行くんじゃない、探しに行ったんだよ」
「そうか、それにしたって、大したことはないよ」
この幻怪な少年に抑留されたために、柳田平治は殿《しんがり》となって、通ろうとしたお松の船室への行方を見失ってしまいました。
「キャビンへいらっしゃい、案内してあげます」
それを心得た清澄の茂太郎は、案内顔に先に立ったが、
「その刀、持って上げましょう」
甲板から船室へ下るには、つかえそうな長い刀。
茂太郎も、最初から、その長い刀に興味を持っておりました。
百四十五
それから、マドロスと、兵部の娘とは、体《てい》のいい監禁を施して置いて、その夜は一晩無事に寝《やす》み、翌朝、お松が柳田平治を案内
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