こんでいる何物をか、よく見ると、それは一箇の般若《はんにゃ》の面に相違ない。そこでなんだか一種の幻怪味に襲われながら、
「それは、見つかるだろう」
「そうかしら、あたいは、どうもそれが覚束《おぼつか》ないと思うんだが」
「見つかるよ、心配し給うな」
柳田平治は、七兵衛おやじの何ものであるかを知らない。また、この少年の何ものであるかを知らない。だが、田山白雲が、この二人の駈落者のほかに、まだたしかに尋ねる人があるらしいことだけは、相当に合点《がてん》している。その者がいわゆる七兵衛おやじなる者だろうか。果して田山白雲が、この二人の駈落者を突留め得た如く、七兵衛おやじなるものを捕え得るかどうかということには、全然当りがついていない。しかし、この舟の者が、こうまで心配していることを見計らって、相当の気休めを言ったつもりなのだろうが、それを肯《うけが》わない清澄の茂太郎が、
「そうはいかないよ、君、そう君の考えるように簡単に見つかりませんよ、七兵衛おやじは……」
意外千万にも、このこまっちゃくれた少年はこう言って、柳田の一片の好意を否定してかかりましたから、ここでも柳田平治は、ちょっと毒気
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