えないからです
ですけれども
あの人は
イエスキリストを
信じています
働くことのほかには
聖書を読み
聖書を読むことのほかには
祈りを上げています
ごらんなさい
この帆柱の下で
いま金椎さんが
イエスキリストに
祈りを捧げています
[#ここで字下げ終わり]
 この少年の眼が特にすぐれていて、夜の空で、肉眼では見難い星の数を苦もなく数えることは、以前に述べたことがある。
 その眼で――今、暗い中空から燈火《あかり》のない甲板の上を見下ろすと、なるほど、そう言われてみるとその通り、一人の小さな人体が跪《ひざまず》いて、一心に凝固《こりかた》まっている形が、ありありと認められる。
 よく見ると、それは例の支那少年の金椎でした。金椎は、いま茂太郎によって紹介された通り、この船の中の乗組の一人で、救われたる支那少年です。
 茂太郎が帆柱の上でジンド・バッド・セーラを唄い出した時、或いはその以前から、ここに跪いて、こうして凝り固まっていたものに相違ない。
 今、改めて、帆柱の上からこうしてけたたましく存在を紹介されても、更に動揺するのではありませんでした。ひざまずいて凝《こ》り固まっている形は、
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