白い
あとを聞きたい
まだまだ
一千一夜の間も
語れば語り尽すほど
面白い話があります
ところが皆さん
マドロス君のやつ
駈落《かけおち》をやり出してね
この船を逃げ出したものですから
あとを聞くことが
できません
マドロス君という奴は
だらしのない奴です
憎い奴です
そこで田山白雲先生が
あれをつかまえに
おいでになりました
だがお嬢さんも
よくない
罪はどちらが重いか
それはあたしは知らない
バツカ、ロンドン、ツアン
[#ここで字下げ終わり]
 文句として見ると出鱈目の散文に過ぎないけれども、この子供の咽喉《のど》を通して聞くと、歌になり、詩になって現われるのです。

         百三十九

 マストの上の茂太郎は、誰も聞き手のない出鱈目、喝采《かっさい》の反響の起らない演説を、声いっぱいに続けています。
[#ここから2字下げ]
さて皆さん
田山白雲先生は
必ず
あのマドロス君を
とっつかまえて
戻ると
私は固く信じているのです
マドロス君の奴
田山先生に
会っちゃあかないません
だが
七兵衛おやじの方は
おそらく田山先生でも
つかまえることは
できないだろうと
私は考えてい
前へ 次へ
全551ページ中382ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング