また、あの船長様のお船で始まったよ、船長様のお船には珍しい活発な男の子が一人いて、よく歌い、よく踊る、ということはこのごろ、港の評判になっておりますから、こう突然に夜中に高い声で、突拍子もない音調が聞え出しても、誰も特に驚かされるものはなく、また始まった! といって、いやな顔もしないで、かえってその出鱈目に聞き惚れようとする気色ありげに見えるくらいです。まず、
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ジンド・バッド・セーラ
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を繰返してから、やがて、音調が一変して、
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皆さん――
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と演説口調になるのです。聴き手を前に置いての演説ではなく、ただ無意識に、天地と物象とに向って呼びかけたくなって、かく叫び出すのも、この子供の出鱈目の一つの形式なのであります。
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皆さん
ジンド・バッド・セーラを御存じですか
あれはアラビヤの国の
船のりです
一生のうちに
幾度も船で
大海へ乗り出して
命とつり替えに
すばらしい宝を
たくさんに取って帰りました
マドロス君が
よくその話を
知っています――
あの話は
たまらないほど
面
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