確《しか》と湖水の四方の陸と島とを弁別してから、以前の庵のところに立戻って来ると、弁信法師は以前のままの姿で首低《うなだ》れて考え込んでいましたが、やがて言いました、
「米友さん、わたくしは暫くひとりでこの島に留まりますから、あなただけお帰り下さい、帰って胆吹山の皆さんに、よろしくお伝え下さい」
百三十八
牡鹿半島《おじかはんとう》の月ノ浦に碇泊している駒井甚三郎が新規創造の蒸気船「無名丸」の、檣《マスト》の上の横手に無雑作に腰打ちかけて、高らかに、出鱈目《でたらめ》の歌をうたい込んでいるのは清澄の茂太郎。
今晩は星の夜です。最初のうちは無言に星の数を数えていましたが、天文に異状なしと認めて、それから例によって出鱈目の歌にとりかかりましたのです。
[#ここから2字下げ]
ジンド・バッド・セーラ
ジンド・バッド・セーラ
ジンド・バッド・セーラ
[#ここで字下げ終わり]
これを、幾度か声高らかに、高いマストの横手の上で唱え出したものですから、静寂な石巻湾の天地に響き渡りました。
あたりにもやっている船でも、港の漁家でも、このごろはさして、それに驚きません。
前へ
次へ
全551ページ中380ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング