、ムキになって鳥を追うものですから、弁信が、
「米友さん――鳥が驚かないのが人の住まない証拠です、島が小さくて、畑を作るべき土地も、面積もないから、人が住まないのです」
 斯様《かよう》に弁信が断定を下しながら、米友を先に立てて行くうちに、米友がまたも叫び出しました、
「弁信さん――お前の言うことは、どうもあんまり当てにならねえ」
「どうしてですか」
「お前は、この島に人が住まねえと言ったが、これこの通り、ちゃんと、人の住んだあとがある」
「え?」
「これ見な、この岩の一角を切り拓《ひら》いて、ちゃんと人間の住居《すまい》がこしらえてある、これ見な、やあ――木魚があらあ、お経の本があらあ――鉦《かね》太鼓があらあ……」
 米友は自ら好奇をもって進入したところには、岩に沿うているけれども洞穴ではなく、たしかに人間のむすんだ草の庵《いおり》があるのです。

         百三十七

 弁信の人が住んでいないと言ったのも、米友の人が住んでいると証明したのも、どちらも誤りではありませんでした。
 その草の庵には、過去に於て、人の住んでいた痕跡は充分ですが、現在に於て、人の住んでいないという
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