す、竹生島と申しまする島は、金輪際《こんりんざい》から浮き出た島でございまして、東西南北二十余町と承りましたが、この島はそれほど大きい島ではございません」
「はーてな」
「これは何という島か存じませんが、ずっと小さな島です、多分人間は住んでおりますまい。ともかく高いところまで登りつめてごらんなさい、そうすれば必ず四方見晴しにきまっております、そこで、あなたの眼でよく見定めていただきましょう、竹生島は、あちらの方へさほど遠からぬところに見えなければならないはずでございます、南の方は陸つづき、多分、彦根のお城の方になりましょう、あなたの目でよく見届けていただきます」
「よし来た」
 米友は、心得て弁信を案内し、道なき岩道をのぼりかけたが、竹が多いし、大木もある、その木の上に真黒い鳥が夥しくいる。巌の下の淵《ふち》をのぞくと、また夥しい美鳥がいる。
「下のは鴨、上の真黒いのは何だい、烏じゃねえ、鵜《う》だ、鵜だ――畜生、逃げやがらねえ」
と、岩角で地団駄を踏んでみて舌を捲いたのは、この夥しい鳥が、ちょっとやそっと威《おど》してみたところで、お感じのないことです。
「畜生、畜生――」
 米友が
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