のでございますが、眼は見えませんでも、私には勘というものがございまして、天にはお天道様というものもございます、このお天道様のお光と、この頭の中の勘というものとを照し合わせてみますると、方角というものはおおよそわかるものでございます。ですから、これはやっぱりわたくしが悪いのでございました、責任がわたくしにあるのでございました、米友さんはただ舟を漕いでいただけばよいのでございました、右とか、左とか、取り梶とか、おも梶とかいうことは、その時々刻々、わたくしが言わなければならないのを怠りました、それ故に舟の方向をあやまらせてしまったのは、米友さんが悪いのじゃありません、案内役のわたくしが悪かったのです、米友さんの胸の中を考えるために、私がよけいな頭を使って、舟の方がお留守になりました、それ故ほんの一瞬の差で、舟の全針路を誤らせてしまいました。わたくしたちは全く別な心で出直さなければなりません、そうでございませんと、湖とは申せ日本第一の大湖、周囲は七十里に余ると承りました、迷えば方寸も千里と申します、ましてやこの七十里の湖の中で、二人は迷わなければなりません。米友さん、少しの間、舟を漕ぐことを止
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