けての肉つきというものを、まざまざと見せつけられたが、女としては見せつけたのではない、こういうだらしのないのが、こういう女の作法だろうとも思いました。

         百二十七

 女は寝ながら、次のような話をはじめました。
 それを書き下ろしてみると――
 昔、同じ藩中の人に殺されたお武家がありました。そのもとの起りは、奥様から起ったのだそうです。そこで、まだ子供はなし、力になるほどの身寄りもないけれど、この奥様は、なかなか気象の勝った奥様でございまして、夫の敵《かたき》、もとはと言えば自分から起ったこと、これをこのままにして置いては、女ながら武士道が立たない。といって、身寄りには一人も力になるのはないのです。そこで雄々しくも自分の夫の敵討願いを出して、旅に出ることに覚悟を決めました。
 ところで、家には、夫の時代から愛し使われた若党が一人あるのです。若党といっても若いとはきまっていないけれども、この若党は真実年も若し、それに身体《からだ》が達者で、腕も利き、万事に忠実で、亡き夫も二無きものと愛して召使っておりました。
 この若党にも暇をやって、奥様はひとり敵討の旅に出ようとしま
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