は、このままで、もう少し失礼させていただきましょう」
「何か話をしてくれ給え」
「人の悪口を言いましょうか」
「誰の」
「そうですね――誰がいいでしょう」
「相手を考えて悪口をいう奴もないもんだ」
「仏頂寺の悪口を言ってやりましょうか」
「あれはよせ、あれは見かけほど悪い男ではない」
「胡見沢《くるみざわ》の助平お代官の悪口でも言ってやりましょうか」
「殺された人の悪口などはいけない、たとえ嫌な人であろうとも、ああいうのは、悪口よりは、回向《えこう》をしてやるのが本来だね」
「本当ね、ではそうそう、お蘭さんならいいでしょう、あの人なら、きっとぴんぴんして、どこかで、またいいかげんな人を相手にうじゃじゃけているに違いないわ、あんな人こそ、思いきり悪口を言ってあげた方がいい」
「いや――あれも、君が憎むほどの悪人じゃあるまいぜ、第一、君にこのお手元金を取られてしまって、さぞ残念がってるだろう――そのうえ悪口を言われてはたまるまいからな」
「それもそうですね、あたりまえなら只で置く女ではないのですが、罰金が取上げてあるから、暫く許して置いてあげましょう」
「それがいい」
「では、誰の悪口にし
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