みんなあのお銀様の懐ろから出ているんだぜ」
「そんなはずはない」
「はずはなかろうとも、事実は争われないのだ。ところで、机竜之助は、あの女が保護している限り、君の手には合うまいと考える。しかしまあ、仏頂寺あるところに丸山があり、宇津木兵馬あるところに旅芸妓がありとすれば、お銀様という女のあるところに机竜之助があるかも知れない、その心持で探し給え」
「で、そのお銀様はどこにいる」
「それは知らない」
二人がまたクルリと背を向けたところへ、雲煙が捲き込んで来ました。
百二十四
愕然《がくぜん》として眼が醒めた時に、
「ホ、ホ、ホ」
と傍らで笑いかけた声は、これは本物であって、夢ではありません。
「どうあそばしたの」
と、いつしか醒めていた女が、夜具の中から腹這《はらば》いになって、短い煙管で煙を吹きながら、流し目にこちらを見ていたのです。
「ああ、うとうといい気持で……」
と、兵馬はテレ隠しをするように言うと、女は、
「何かいい夢をごらんになって……」
「いや、別段――」
と、まだ夢心地で申しわけのように言うと、
「嘘よ、いい夢をごらんになったに違いないわ」
「あ
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