わせて本望を遂げさせてやりたいし、このお銀様の頼みも無下《むげ》には捨てられない。ところで、お銀様が説くところを聞いていると、なかなか道理がある、ことにもう一つ、あの女には力がある、それは何の力かというに、金力だ、あれは甲州第一の富豪の娘で、莫大な金力の所有者だ、その金力と、弁力とをもって、われわれを圧迫して来たのだ、こいつには参ったよ」
「では、君たちは、金力でもろくも買収されてしまったのだな」
「そういうわけじゃない、金力があろうとも、弁力があろうとも、その人にそれだけの力がなけりゃ、人を圧服することはできやせん、正直に言えば我々は、お銀様という女に圧倒されてしまって、否応なしに、君にとっては憎まれ役――二人を会わせまいとする役割をつとめてしまったのだ」
「意気地がないなあ――女に圧倒されてしまった仏頂寺」
兵馬が嘲ると、丸山勇仙が、
「女だって、あの女は少し違うよ、買収と言えば人聞きが悪いが、あの女は使うようにして使うんだ、仮りに買収されたとすれば、僕等ばかりじゃない、君もまた、あの女に買収されていたんだぜ。君の諏訪から今までの道中費は、よそながら僕等が支払った、これは間接に、
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