の重大な弱味をあばかれでもしたような気持がして、ちょっと返答に窮していると、今度は外で仏頂寺弥助が代って言いました、
「宇津木、まあいいよ、そんなことは丸山の愚痴だ、我々は勝手に行きたいところへ行こうとして、その目的を達したんだから、あえて君に見送られようとも、見送られまいとも、それを言い立てる我々じゃない、我輩と丸山とは、こうして円満に人情主義をやり通したが、君のはあぶないぜ――これからが危険なんだ」
「それは知っているよ」
と兵馬が、とってもつかぬように内から答えますと、丸山勇仙が、
「危険というのは、君、白山白水谷の危険という意味ばかりじゃないぜ」
「それも、これも、承知の上なのだ、無益な問答をするよりは、なかへ入り給えと言うに」
「こっちはこれが勝手だと言ってるんだからいいじゃないか。では、丸山、このくらいで引返そうではないか」
と仏頂寺が丸山を促したらしい。そうすると、丸山勇仙が、
「そうだね、この辺で引上げるとしようか、では、宇津木、大事に行けよ」
「君たち、帰るのか、あんまりあっけないではないか」
「いや、そのうちまた、どこかで逢う機会もあるだろうよ、大事にし給え。それか
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