たちは邪推者《じゃすいもの》だ」
兵馬が怒ると、外で抜からぬ声、
「我々の邪推じゃないよ、粋《すい》を通しているのだよ。いいかい、我々がこれほど粋を通してやっているのを、悪くとる宇津木君、君はねじけ者だ。いったい、君は我々を厄介者のようにして、常々けむたがっているようだが、それが大きな了見違いだよ、君のために、我々が計って不忠をしたことがあるかい、こう見えても仏頂寺と丸山は、人情主義者なんだ、君のような不人情漢とは性質《たち》が違う」
丸山勇仙は弁舌が軽い。兵馬はついそれに釣り込まれて、
「いつ、拙者が不人情をした」
「は、は、は」
とまた外で、二人が声を合わせて笑いました。
百二十一
どっと笑ってから、丸山勇仙がまた抜からぬ声で言いました、
「まあ、おそらく君ぐらい不人情な男はあるまいよ。我輩の如きは、君も見て知っているだろうが、小鳥峠の上で、仏頂寺と見事に心中を遂《と》げたんだ、仏頂寺の友誼《ゆうぎ》に殉《じゅん》じたんだぜ。僕はなにも先んじて死にたかったわけじゃないんだ、仏頂寺が死にたくなったというから、驚いて差留めたくらいなものなんだ。だが、理由を聞
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