、道であって道でない。
 こういう道を踏み破ることは、自分はあえて意としないが、この女連れだ。この女は、こうして行けばひとりでに白山へも登れるし、金沢へも出られると心得ているらしいが、さて、明日からの旅の実際の味を嘗《な》めさせられてみると、へたばるのはわかりきっている。今晩はここで宿があったからいいが、明日の晩からの宿りは当てがないのだ。
 よし、明日になったら、ひとつ案内人を求めてみよう。それから、馬が通うか、通わないか、山駕籠を金沢まで通して雇えるものか、雇えないものか――そのへんもひとつ確めてみてやろう。
 体《てい》のいい駈落者だ。駈落ならばまだ洒落気《しゃれっけ》もあるが、実はこの女のために、体のいいお供を仰せつかったようなものだ。それもよろしい、自分はこのごろ観念した。
 すべて、追い求めるものは与えられないように出来ている。求めざるものが降りかかって来るようにこの世は出来ている。そこで自分は観念したのだ、決して追い求むるもののためにあせる[#「あせる」に傍点]まい、降りかかって来たものを避けまい。
 これが、このごろ出来た自分の一つの公案なのだ。降りかかって来たものを蹴
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