またこの女にぶっつかった。
たずね求める兄の仇机竜之助なるものには、どこをどう探っても行き当らない。掴《つか》み得たかと思うと、さらりと抜けられる。求めんともせざるかよう[#「かよう」に傍点]な女のためには、それからそれと附纏《つきまと》われる。女の方でも必ずしも附纏う気はないのだ。また、自分としても、女に附きまとわれたり、食いつかれたりするほどの罪を作っていないのに、おたがいは、絶えず右と左から堂々巡りをし合って、ばあ――とも言えず、またかと苦笑いしながら、手を取り合っている。
手を取り合うといったところで、手に手をとって鳥が鳴く東路《あずまじ》……というようなしゃれた道行ではないが、女は兵馬をたよるように出来、兵馬も女を見てやらなければならないように悪く出来ている。これから、名にし負う飛騨の山谷を越えて、加賀の里へ出るまで、この女との二人旅、兵馬はそれを思うとうんざりせざるを得ない。
そうこうしているうちに、日も暮れる、さし当ってはまた今夜の宿だ。
百十八
しかし、その日は、とある山宿に宿を求めることができました。
山宿といったところで、この辺は、特
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