宴に浮かれ出した、手がつけられない、と隠れた二人は苦り切っているうちに、仏頂寺と丸山は、断末魔の苦境に進んで行っていたのだ。
両箇《ふたつ》の屍骸《しがい》の前に、兵馬と福松は色を失って立っているが、さて、手のつけようのないことは同じです。
手のつけようがないのみならず、うっかり手をつけることがかえっていけない。
「どうしましょう」
と女がおろおろ声で言う。
「どうにも、こうにも、全く手のつけようがない」
「かかり合いになるといけませんね」
「不人情のようだが、このまま、そっくりこうして残して置いて、知らぬ面《かお》にあとを晦《くら》ますより仕方がない、気の毒には気の毒千万だが」
「覚悟の上でしていらっしゃるんだから、こうして置いてあげましょうよ、そうして、わたしたちは早くこの場を立ちましょう、こうしているところへ、人が通りかかってごらんなさい、わたしたちが証人にならなければなりません、そうなればまた高山へ呼び戻されなければなりません、あなたはいいとして、それではわたしが困ります、高山へ戻れば、わたしは助かりません、責め殺されてしまいますよ、知らない面をして行ってしまいましょうよ、
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