ょうぜん》として闇の中を見ている。
 主膳の眼を注いだ方向へ線を引いて見ると、そこにまた恐るべき存在がある。地蔵の姿を悪魔の姿と見た神尾の眼には、これは正銘の悪魔だ、悪魔の戯《たわむ》れだ。悪魔の戯れにしても、これはあまり度が強過ぎる。
 人間の生首が四つ、ずらりと宙に浮いているのです。
 宙に浮くと言っても、幽霊として現われたのではない。足はないけれども、台はあるのです。三尺高いところの台があって、その上に人間の生首がズラリと並んで、驚く主膳を尻目にかけたり、白眼に見たりしてあざ笑っている。
「獄門だ!」
と主膳は我知らず叫び出すと共に、今までの疑問が発止《はっし》とばかり解けました。
「わかったぞ! これは小塚《こづか》ッ原《ぱら》だ」
 そうだ、ここは俗に千住の小塚ッ原、一名を骨《こつ》ヶ原《はら》という――仕置にかけて人間を殺すところなのだ。

         百十五

 ところは転じて飛騨《ひだ》の国、高山の町の北、小鳥峠の上。
「どうにも手のつけようがない」
 仏頂寺弥助と丸山勇仙の自殺した亡骸《なきがら》を前にして、泣くにも泣けなかった宇津木兵馬は、手のつけようも、足の
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