えりさえすれば神尾のことだから、相当要領よく遁《のが》れて、余炎《ほとぼり》を抜くまでどこぞに忍ばせているだろう。
そこで、悪食連も、いいかげんで探索を打切って、それから一方へ鐚を寝かして置いて、一室に集まったが、これで正七ツも過ぎてしまい、せっかくの趣向の悪食も、その日はそれでお流れです。
悪食はお流れとしても、こう面を合わせてみると、それからそれと余談に花が咲いて、思わぬところへ話の興が飛びます。
本来、これは悪食の会ではありますけれども、悪人の会ではないのです。それは会員に神尾及び神尾もどきのもあるにはあるが、人間は決して悪くはない。ただ悪食《あくじき》そのものだけに、多少の好奇を感じて誘惑されて来た人もあるのですから、なかなか耳を傾けるに足る言説も出て来るのです。
そのうちに、一つの話題の中心となったのは、当時けしからぬのは芝の三田四国町の薩摩屋敷だということです。
あれは、白昼、天下の膝元へ大江山が出来たようなものだ。たかの知れた浮浪人どもの仕業《しわざ》と見ているうちに、昨今いよいよ増長して、断然目に余る。
大江山に棲《す》む鬼共が、帝京の地に出没して物を掠《か
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