差支えないが、さりとて、相当堅気のものも好奇《ものずき》で寄って来ている。
 悪食には、品質を主とするものと、趣向を先とするものがあって、品質を主とするものには、蜥蜴《とかげ》の腸だの、蛇の肝だの、鰐《わに》の舌ベロだのといって、求めても容易に得られざる悪食を持寄って、そのあくどい程度に於て優劣がある。趣向を主とするものには、材料そのものは、あえて珍奇であることを必要としない、その材料の取扱い方によって、悪食の気分を豊富にする。
 今日の会は、その後者を撰んだのでありました。すなわち材料そのものは、つとめて通常の材料をとり、これをできるだけ嘔吐《おうと》を催し、嫌悪《けんお》を起させる悪食に変化して食わせることに腕を見せる――というのが、今日の趣向であったのです。
 そこで、みな相当に腕によりをかけて、その趣向を充たさせて、今か今かと待構えているうちに、会員の一名、神尾が来ない。それを待侘《まちわ》びているうちに、玄関のけたたましい叫び――人間が一人ころがり込んで、息が絶えてしまったのです。

         百十一

 そこで、悪食連も驚いて出て見ると、玄関に転げ込んで、かわいそう
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