へ行くと日本の国の女なんぞは、肌を人に見られると舌を噛《か》んで死んでしまう。たいした違いでげす。日本の女は肌をさらしものにされることを恥辱と心得ているが、あちらの方は、素裸を社会公衆の前にさらしものにして、それが御自慢なんでげす。つまり、人間のこしらえた衣裳なんぞを引っかけたのでは天真の美を損ずる――わが女房の一糸もかけぬ肉体をごろうじろ、この通り天の成せる艶麗なる美貌――テナわけでがあしてな。
でげすから、なあに、商館の番頭の女房といえども、支配人の細君といえども、話の持ちかけようによっては、どうにかならない限りはがんすまい。びた[#「びた」に傍点]一代の知恵を搾《しぼ》って、腕により[#「より」に傍点]をかけてごらんに入れますから、少々お気を長くお待ち下さい。そもそも兼好《けんこう》ほどの剛の者がついておりながら、高武蔵守師直《こうのむさしのかみもろなお》が塩谷《えんや》の妻でしくじったのも、短気から――すべて色事には短気がいちばんの損気。
というようなおべんちゃらを、びた[#「びた」に傍点]助が繰返して、またともかくも神尾主膳を一応まるめ込んでしまいました。
さて、それか
前へ
次へ
全551ページ中292ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング