改めびた[#「びた」に傍点]助は、こういう場合に、主膳の意に逆らうような文句を以て応酬することの、かえって火に油を注ぐようなものであることだけはよく知っている。
そこで、忽《たちま》ちに論法を一変してしまって、ことごとく神尾の言い分に同じてしまいました。そうして、毛唐なんていうものは、要するに獣の部類に属するもので、お体裁ばかりは作っているが、その実、人倫なんぞは蹂躙《じゅうりん》してかまわない、その証拠としては、衣冠束帯などの儀式を知っているものは一人もなく、男はみんな仕事師同様の筒っぽを着ている。
女は鳥の毛や毛皮を好んで着たがるが、それは今いうところのお体裁ばかりだから、室内にいる時は裸になりたがる。ごらんなさい、毛唐の女の絵といえば、八分通りはみんな裸でげすからな。裸になれと言えば、どんな高尚な奥様でも裸になるばかりか、その裸姿を絵に描きたいからと言えば、どんな高尚な奥様でも二つ返事で、その裸を描かせてくれる。そればかりじゃがあせん、その裸の姿を、大勢の見るところの書画会かなにかへ持って来てさらしものにすると、どんな高尚な奥様でも、御当人嬉しがること、嬉しがること。
そこ
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