う」
「無理でない」
「無理でないとおっしゃるのが、無理の証拠でござんしょう」
「無理でない――なるほど、こっちの倫理道徳から言えば無理かも知れないが、毛唐の奴には無理でない」
「毛唐と申しましても、人間の道に二つはございますまい」
「ある、二つも三つもある、毛唐は即ち外道《げどう》なんだ、聞け、鐚公、こっちでは、娘のうちももとより、女の貞操というものを重んずるが、女房になってからは絶対的だ、娘のうちは多少ふしだらをしても、どうやら女房に納まった後は不義をしない、また売女遊女の上りでも、人の女房となれば、日本の女は貞操を守るというのが習わしだ、ところが、毛唐の女は違う、娘のうちは存外品行が正しいが、女房になってからかえって貞操を解放する習わしだと聞いている、もちろん、みんながみんなそうではあるまいが、毛唐の方では、比較的自由であると聞いている、だから、人の女房でも、存外たやすくもの[#「もの」に傍点]になると聞いている――おれが知っているそのくらいの風俗を、貴様が知らないはずはあるまい、どうだ、真剣に返事をしろ」
主膳の三ツ眼が青い炎を吹いている。
百五
金助
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