させる、それが交易《こうえき》というものだ――交易の講釈は貴様がお師匠で、飽きるほど聞かされている、いやとは言えまい」
「いやどうも、敵すべからずでげす、何とあいさつを致していいか、鐚助、このところ返答に窮す」
「窮することはない」
「弱りましたな」
「弱ることはない」
「とにかく――その、殿様、殿様のおっしゃるところにも、そりゃ一理あるにはありますが、どうもはや……とにかく、女房はいけませんよ、主ある女はいけません、何でしたら、そのうちいいのを物色いたしまして、殿様のお望みを叶えることに致しやしょう、そう短兵急におっしゃられては困ります」
「逃げ口上は許さぬ、おれがいったん口に出した以上は、横にでも、縦にでも、車を押切るのだ」
「でも、人の女房はいけません、主ある女はいけません――ほかに」
「なぜ、いけない」
「なぜとおっしゃりましても、売り物買い物なら、それは差支えございません、素人《しろうと》でございましても、色の恋のというまでもなく、得心ずくでしたら、そりゃ横恋慕《よこれんぼ》もかなうことがございましょう、毛唐とはいえ、れっきとした商館の女房を取持て――こりゃ御無理でござんしょ
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