講釈ばかりを、いい気になって聴いているおれではない――おれにはおれで野心があるのだ、いいか、今日はひとつ、いやが応でもそれを切出すから、貴様ひとつ手配をしてみろよ」
「もとより、殿の御馬前に討死を覚悟の鐚助めにござります」
「ほかではない、今時はラシャメンが流行《はや》る、なるほど、貴様の言う通り、ラシャメンで国を富ます方法もあるかも知れない、そんなことがいいの悪いのと、貴様を相手に討論するおれではない、ラシャメンをするような腐れ女に、金を出したい毛唐は出せ、ラシャメンになってまで金が欲しい女はなれ、おりゃ、かれこれと子《し》のたまわく[#「のたまわく」に傍点]は言わねえ――だが、毛唐めが日本の女を弄《もてあそ》んでみたいのも人情というやつなら、日本の男も毛唐の女をおもちゃにしてみてえというのも人情だろう――おれは万事、むしゃくしゃする胸の中を、相身互いとして納めてみたいんだ。いいか、おれも今まで、遊びという遊びはおおかたやったよ、人間のする道楽という道楽も、一通りや二通りはやってやり尽したが、まだ毛唐の女を相手にしてみたことはないんだ。いいかい、お絹という女は、おれの見る前で、いい気
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