柄の格式で威張っていても、蔭へ廻ると、大町人のお金の光にはかないません、みじめなもんでげすよ――将来は金でげすな、もう槍先の功名《こうみょう》の時代じゃあがあせん」
そこで大きく金を儲《もう》けるためには、どうしても、いやな毛唐と取組まなければならない。毛唐と取組むには、女に限る――
要するに一つの軍法だ。
それともう一つ、いま築地の異人館へボーイに住込ませて置く忠作という小僧が、あれがまたなかなかのちゃっかり者で、ボーイに身をやつして、毛唐の趣味趣向から、その長所弱点をことごとく研究中である。そこで、マダム・シルクを先鋒として、忠作を中堅に、我々が後援で、異人館を濡手で乗取ってしまうのも間近いうち――まずそれまでは、しばしの御辛抱――というようなことを、鐚助が口に任せてベラベラとまくし立てるのは例の通りで、神尾といえども、こいつらの軽口にそのまま乗ってしまうほどの男ではないが、そういう話を聞かされるうちに、またまた癇癪《かんしゃく》が多少緩和されてきて、頭の中は雨時のように、曇ったり晴れたりするが、そのむしゃくしゃの原因がきれいに拭い去られたわけではない。
「鐚公、貴様の能書と
前へ
次へ
全551ページ中286ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング