た一晩にしてからが、洋銀三枚がとこは出す。月ぎめということになるてえと、十両は安いところ、玉によっては二十両ぐらいはサラサラと出す。そこで、仮りに日本の娘が一万人だけラシャメンになったと積ってごろうじろ、月二十両ずつ稼《かせ》いで一年二百四十両の一万人として、年分二百四十万両というものが日本の国へ転がりこむ。これがお前さん、資本《もとで》要らずでげすから大したもんでげさあ。というような論法が、こいつのラシャメン立国論になっている。

         百三

「ねえ――殿様、さいぜんも槍のお話が出ましたことでげすが、昔はそれ、槍一本で一国一城の主ともなりました、お旗本の御先祖様なんぞは大方はそれでげす。ところが、当今になりましては、もはや槍一本で一国一城の主というような夢は、歴史が許しませんでげしてな」
 鐚《びた》公は、しゃあしゃあとして、高慢面に喋りつづける。
「その一国一城てのが、当今はみんな心細いものでしてな、お台所をうかがいますてえと、大大名といえども内実は、みんな大町人に頭が上らないんでげすからな、借金だらけでげすよ、勤王方も佐幕方も、台所方は似たりよったりでげす、表はお家
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