下って汚いような名でげすが、名を捨てて実を取る、というのがあの軍法でげしてな」
金公は抜からぬ面《かお》で、いつもの持論をまくし立てる。
今の日本人は、毛唐に対して、威張れば威張るほど損をする。威張っている上流の人間ほど、毛唐から借金をしたがったり、毛唐に罰金を取られたがっている。
それに反して、日本の絹糸を売り込みさえすれば、毛唐は喜んで高金を出して買って行く。それがために、どのくらい日本へ金が落ちるか知れない。
それと、もう一つは、この鐚助独特のラシャメン立国論で――こいつが臆面なく喋《しゃべ》り立てるラシャメン立国論というのは、つまり次のような論法である。
露をだに厭《いと》ふ大和の女郎花《おみなへし》降るあめりかに袖は濡らさじ――なんてのは、ありゃ、のぼせ者が作った小説でげす。
拙《せつ》が神奈川の神風楼《しんぷうろう》について実地に調べてみたところによると、その跡かたは空《くう》をつかむ如し、あれは何かためにするところのある奴がこしらえた小説でげす。
事実は大和の女郎花の中にも、袖を濡らしたがっている奴がうんとある。毛唐の奴めも、女にかけては全く甘いもんで、たっ
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