あがあせん、うっかりしていた日には、日本の国の甘い汁という汁はみんな吸われて持って行かれちゃいやす。現に近代に於ても、性《しょう》のいいところの日本の国の金銀を、どのくらいあの奴等に持って行かれたか、数えられたものじゃあがあせん――どうして、船にいたせ、機械にいたせ、あちらとこちらとでは段が違いやして、太刀打《たちう》ちができる相手じゃあがあせん。現に相州の生麦村《なまむぎむら》に於て、薩摩っぽうが無礼者! てんで、毛唐を二人か二人半斬ったはよろしいが、その代りに、みすみす四十四万両てえ血の出るような大金を、異国へ罰金として納め込まにゃなりやせん。長州の菜っぱ隊が、下関で毛唐の船とうち合いをして、日本の胆ッ玉を見せたなんぞとおっしゃりますが、その尻はどこへ廻って参りましょう、みんな徳川の政府が、このせち辛い政治向のお台所から、血の出るような罰金として、毛唐めに納めなきゃあならない次第でげす――そこへ行きますてえと、何といってもエライのは日本の絹と、ラシャメンでげすよ、日本の絹糸はどしどし毛唐に売りつけて、こっちへ逆にお金を吸い取って来る、それからラシャメンでげす、ラシャメンというと品が
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