かない金公は、いい気になって、
「全く以てあのマダム・シルクときた日には、いつ、どこへお年をお取りなさるんだかわかりません、たまらないものでげす、ぶち殺してやりたいようなもんでげす」
と、ベラベラ附け加えてしゃべってしまったので、神尾の三つの目がまたも炎を出しながら、クルクルと廻転しました。
「びた[#「びた」に傍点]公!」
と言った神尾の権幕の変っているのに思わずゾッとした鐚助は、それでも、これは食べつけている例の病気だなと、甘く見ることをも心得ているものですから、さあらぬ体《てい》で、それをあやなすつもりで、
「何事でげすかな」
「あの絹という女は、ありゃ、今では真実ラシャメンになりきっているのか」
「いや、これはこれは、事改まって異様なるおんのうせ」
扇子でピタリと自分の頭を叩いて言いました。
「お絹様――ペロに翻訳をいたしましてマダム・シルク――あの方が、真実正銘のラシャメンになりきったかとの御尋ね、これはほかならぬお殿様のおんのうせとしては甚《はなは》だ水臭い」
「野《の》だわ言《ごと》を申さず、はっきりと白状しろ、あの女は、このごろは異人館へ入りびたりだ、ちっともここへは
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