っぷしでやられた日にはたまりませんや、これでも鐚助にとっては、かけがえのねえたった一つの親譲りの面なんでげすからなあ」
「ふん――ちゃち[#「ちゃち」に傍点]な面だなあ、陣幕や小野川の腕でぶたれたんなら知らぬこと、この尾羽《おば》打枯らした神尾の痩腕《やせうで》が、そんなにこたえるかい、一つぶたせりゃ十両になるんだ、この神尾の痩腕で……」
「どういたしまして、殿様のなんぞは、そりゃどちらかと申せばきゃしゃなお手なんでげすが、何に致せ、もとは鍛えたお手練でいらっしゃる、手練がおありなさるから、たまりませんや」
「は、は、は、わしはあんまり武芸の手練はないぞ、若い時、もう少し手練をして置いたらと思われるが、つい、酒と女の方に手練が廻り過ぎてしまった」
「いや、どういたしまして、何とおっしゃっても、お家柄でございます、殿様のお槍のお手筋などは、御幼少から抜群と、鐚助|夙《つと》に承っておりまするでげす」
意外にも神尾は、こののだいこ[#「のだいこ」に傍点]から自分の武芸を推称されたので、少しあまずっぱい心持がしてきました。
百
なるほど、おれは旗本としては、やくざ旗
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