をもっと近く、ここへ出せ」
「いけやせん、もともと金公の面なんて面は、出し惜みをするような面じゃがあせんが、それだと申して、殿様のその御権幕の前へ出した日にゃたまりません」
「出さないか」
「出しませんよ、決して出しません、いい気になってつん出した途端を、ぽかり! 鐚助、貴様のは千枚張りだから、このくらい食わしても痛みは感じまい、どうだ、少しはこたえるか、なんぞと来た日にはたまりませんからな。こう見えても、面も身のうちでげす」
「どうだ、びた[#「びた」に傍点]助、今日は十両やるから、その面をひとつ、思いきりひっぱたかせてくれないか」
「せっかくだが、お断わり申してえ、これで、お絹さまあたりから、びた[#「びた」に傍点]公や、お前のその頬っぺたをちょっとお貸し、わたしにひとつぶたせておくれでないか、気がむしゃくしゃしてたまらないから、ひとつわたしにぶたせておくれ、てなことをおっしゃられると、ようがすとも、鐚公の面でお宜しかったら、幾つなとおぶちなさい、右が打ちようござんすか、それとも左がお恰好《かっこう》でげすかと、こうして持寄って、たあんとおぶたせ申しても悪くがあせんがねえ、殿様の腕
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