の真中を、井戸のはね釣瓶《つるべ》で牡丹餅大《ぼたもちだい》にばっくりと食って取られたそのあとが、相当に癒着しているとはいえ、塗り隠すことも、埋め込むこともできない――親の産み成した両眼のほかに、縦に一つの眼が出来ている。
これが出来て以来、人目にこの面をさらすことができない。いや、それ以前から人前では廃《すた》った面になって、これで内外共に、人外《にんがい》の極《きわ》めつきにされてしまった。
この面を人に会わすことは避けているが、子供は正直だから言う、
「三《み》ツ目《め》錐《ぎり》の殿様」
神尾主膳は興奮のうちにも、三ツ目錐を急所へキリキリと押揉むような、何かしらの痛快を感じたと見えて、額の三眼が、クルクルと炎のように舞い出したのです。
こうなった時は、触るるものみな砕くよりほかはない。傍《かた》えにあればあるものを取って抑えて、むちゃくちゃにその興奮のるつぼ[#「るつぼ」に傍点]へ投げ込むよりほかはない。
お絹という女がいれば、こういう興奮を、忽《たちま》ち取って抑えてぐんにゃりさせてしまう。三ツ目錐の炎を消すには、頽廃《たいはい》しかけたお絹という女の乳白色の手で抑
前へ
次へ
全551ページ中272ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング