せまいがためだ。二本目を抜かせると、何をやり出すか知れない!
その危険性は白雲もまた、充分に見て取っているのだ。ああいう際には、暫く不問に附してみることも、役人として卑怯なりとは言えない。だが、あの当座だけ大目に見られた御当人が、これから先、あの調子で、江戸まで往来が為《な》され得ると考えたら大間違い。恐山から来たと言ったが、本当の山出しで、まだ世間を知らない。立ちどころに行詰まって、立腹《たちばら》でも切らなければ納まらなくなるのが眼に見えるようだと、白雲はそれを思いやり、笑止千万に感じながら、でも、なかなか痛快な若者ではある、自分が帰りがけでもあれば、同行して面倒を見てやってもいいが、今はそうしてもおられない。
いや、飯も食い終った、乗合も散った、さあ出かけよう、と田山白雲が若干の茶代を置いて、この渡頭の茶店を立ち出でると、出逢頭に、のこのことこの場へやって来たものがありました。
見ると、それが今の思出し男、恐山から来た柳田平治に相違ありませんから、白雲も思わず、たじたじとしたことです。何をどうしたのか、先刻あれほど肩で風を切って出かけて行った男が、なんとなく浮かぬ面《かお》
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