うも前後の話を取合わせると、右の悪い若侍がそそのかして連れ出した娘の父であるという家老ではないか、家老であるところの父を斬って、その子であるところのお嬢様というのをそそのかして連れ出したのではないか、というように想像されてならないが、話の筋道は全く事件と性質を異にしたものになっている。
事件と性質とを異にしていても、いなくても、前者の事件には、今の長剣短身の男は絶対にかかわりがないと見なければならない。美しいお嬢様なり、姫君なりを連れての道行《みちゆき》ではなかったし、あの男自身も、美男で色悪《いろあく》な若侍とは言えまい。
だが――第二の事件、別に盛岡の城下で、身分の軽からぬものを斬って捨て、行方をくらましたというのへ当てはめてみると、あの男に相当ピタリと来るものがないとは言えないのだ。あの男ならば、意趣や遺恨は別として、単に出逢頭《であいがしら》の話の行違いだけでも、ずいぶん抜く手を見せ兼ねない。嫌疑としても容疑としても、その点は相当のものなのだ。刀の調べられっぷりでも、あれでは結局役人をばかにしたようなものだ。ばかにされたようなものだと知りつつ役人が黙過したのは、二本目を抜か
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