大寺様附きのお侍と、与八と、それから掃除に来た二人の百姓たちとが、手を合わせました。
「与八さん、お前、どこへお行きなさる」
 礼拝が済んでから、与八に言葉をかけたのは、お墓の掃除に頼まれて来た牛久保の富作というお百姓でした。
 与八も見知り越しであり、その子供を世話してやっている。そこで答えました、
「このお婆さんをお送り申しながら、ちょっと竜王まで用足しに参りました」
「そうですか、どうもいつも餓鬼共がお世話にばっかりなりまして」
「どういたしまして」
「それにまた、この節はお湯が開けて、与八さんもいよいよ忙しいでしょうね、功徳《くどく》になっていいことですよ、人助けになりますよ」
「はいはい」
「大旦那様は旅においでになったそうですねえ」
「ええ」
「いつごろ、お帰りになりやすか」
「近いうちにお帰りになるでしょうが、たまのお出先のことだから、また、何か別な御用向が起るかも知れましねえ」
「与八さんが来てから、あのお屋敷へ光がさしたと、みんなが言ってますよ」
「どういたしまして」
 こんな挨拶を交している間に、徳大寺様はじめ、お婆さん、お侍、みんなお墓に対して回向礼拝を終り、さて
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