にはありやすよ――まあ、あのでかい藪の中を探してごらんなさって」
と教えてくれたので、お婆さんは喜んでその教えられた方の大竹欒《だいちくらん》をめざして進んで行くから、与八もそれに従わないわけにはゆきません。

         九十四

 お婆さんが、ひとり呑込みで、だいに[#「だいに」に傍点]様、だいに[#「だいに」に傍点]様と口走っていたその人の本名は、「山県大弐」という名前であることだけはわかりました。だいに[#「だいに」に傍点]様、だいに[#「だいに」に傍点]様と言わないで、本名の山県大弐を呼びさえすれば、土地の物識《ものし》りは知っているということもわかりました。
 田圃《たんぼ》の間をずんずんと進んで行くと、ほどなくその大竹藪まで来ました。別に囲いもないが、さりとて、どこに道がついているのかわからない。それをお婆さんは見つくろって、怖れ気もなく中へ入って行くのです。与八も何が何だかわからないながら、つい、お婆さんに露払いをさせてしまって、若い自分がそれに追従しなければならなくなったのは、お婆さんその人は、たずねる墓の主をよく心得ているが、自分はいっこう知らない。これほどに
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