からねえ」
「いや、お前さんの親類とは言いません、だいに[#「だいに」に傍点]様をお前さんは御存じないかね、困ったものだ、では誰ぞ、その辺の人に聞いてみましょう」
 田の畔《あぜ》を通る村人二三人を呼び止めて、お婆さんが同じように問いかけました。
「だいに[#「だいに」に傍点]様のお墓は、どちらですね」
 これに対する返答は、ほぼ与八同様のものでありました。
 いずれもお婆さんがひとり合点で、だいに[#「だいに」に傍点]様、だいに[#「だいに」に傍点]様と呼びかけるのに、問われた方は怪訝《けげん》な面をして、ぐっと返答にさし詰ってしまうのです。与八は他国者だから、それを知らないにしても、正銘の土地の者が、二人、三人、みんな当惑して、きょとんとした眼でお婆さんを見る。
 ちょうど、四人目に田を起している老人をつかまえた時に、その人だけがやっと眉を開いて、
「ああ、だいに[#「だいに」に傍点]様、山県大弐様《やまがただいにさま》のお墓でごいすかい。そりゃ近いところでごいすよ、あの大きな竹藪《たけやぶ》を目あてにおいでなすって、あの藪の中にごいすよ、ちょっとわかりますめえが、崩れた塔婆がある
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