して熱心にお婆さんがたずねるくらいだから、お婆さんの血筋に近い人でもあるのだろう。
 自分には何の関係もないのだから、どうも先走る気になれないのです。
 しかし、なかなか大きな竹藪に入り込んだのですから、どこがどうか、入って見ていよいよわからなくなる。往手《ゆくて》は枯枝や、蜘蛛《くも》の巣、それに足許に竹の切口や、木の株や、凹みなどもあって、危ない。ほとんど昼なお暗い、八幡《やわた》知らずの藪のようになって、さしものお婆さんも少しひるんでいる。その時に与八がさきへ出て、
「お婆さん、この竹藪を突切って、一度むこうの竜王の土堤へ出て見ようじゃありませんか、土堤へ出て向うで聞いてみたら、知っている人があるかもしれませんよ」
「そうしましょうかね」
 お婆さんも少々|我《が》を折って、二人は一応その竹藪を突切って、あちらの土堤へ出ようということになりました。
 しかし、土堤へ出るつもりで竹藪を突切ってみたが、意外にも土堤へは出ないで、グッと田圃の眺望の開けたところへ出てしまったが、その途端に、
「あっ!」
 二人の目を射たものは、真上に仰ぐ富士の高嶺《たかね》の姿でありました。雪を被《かぶ
前へ 次へ
全551ページ中261ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング