それで、実はわしも、お留守居の方を番頭さんにお任せ申して、胆吹山へ行ってみようかと思っているところです。そうしたらその途中、お婆さんのところへおたずね致しましょう」
九十三
ややあって、お婆さんは急に思い出したように、
「ああ、それそれ、わたしは、すっかり忘れていた、今日は、だいに[#「だいに」に傍点]様のお墓参りをする約束であったのに」
と言って、改まって与八に問いかけたのは、
「若衆《わかいしゅ》さん、お前さん、済みませんが、ちょっと、だいに[#「だいに」に傍点]様のお墓まで案内をして下さい、頼みます」
「だいに[#「だいに」に傍点]様とおっしゃるのは?」
「だいに[#「だいに」に傍点]様――有名なお方ですよ、ここから遠くないところにお墓があるはずです、お前さん、そこへわたしをちょっと案内して下さい」
「だいに[#「だいに」に傍点]様――わしゃ、そういうお方を存じませんが」
与八は、真に当惑面で答えました。お婆さんから突然に、だいに[#「だいに」に傍点]様、だいに[#「だいに」に傍点]様と問われても、いっこう自分には心当りがないので、お婆さんだけが、ひとり
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