ぎ込まれたのでは、主人側としては、面から火が出るような思いをしなければならない。
 それを与八は、別段、赤い面もせずに、へへらへへらと笑って見ていました。お婆さんは肝《きも》を潰《つぶ》しかけた形で、眼を円くしている。子供の一大隊は、
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ダアサイナ
ダアサイナ
ドウロクジンヘ
ダアサイナ
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 ついに与八の教場の眼の前まで来て、割竹を持ったものは、早くも土間の方へなだれ込み、ますます馬力をかけて、
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ダアサイナ
ダアサイナ
ドウロクジンヘ
ダアサイナ
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         九十二

 この分でいると、教場内へ乱入し兼ねまじき勢いに見えましたけれど、与八は泰然自若として驚きませんでした。
 お婆さんも一時|呆《あき》れ返ったが、やがて穏かに自分の巾着《きんちゃく》を取り出して、
「さあ、お婆さんがどうろくさまへ差上げるよ」
と言って、小銭をバラ蒔《ま》いてやると、子供たちはそれを拾い取ると共に、潮の引くように引きあげて、揉み合い、へし合いながら、庭を下って下へおりて行くのです。
 これは、ホンのその
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