熱狂しきっている子供の眼中には、もはや悪女塚の庭もなければ、与八の教場もない。
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ダアサイナ
ダアサイナ
ドウロクジンヘ
ダアサイナ
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 押し合い、へし合いしている、その前後左右に出没して、また別な頑童共が、割竹を持って地面《じべた》を打叩きながら、噺し立てている。それが風俗年中行事であり、子供らが習慣によって無邪気に熱狂しているのはいいとしても、心ある人に、目ざわりになるのは、その真中に押立てられたあれです。誰が、どう見ても、男根の形としか見えない大物を、紅がらでこてこてと真赤に塗り立て、それを真中に擁して一大隊の子供が、火水《ひみず》になれと揉み立てているのだから、目に立てないわけにはいかない。すべて、今までの接待に感心ずくめで通して来たお婆さんも、それを見ないわけにはいかない。与八もまたそれを見せないわけにはいかない。
 ブチこわしだ! と、与八でなければ面《かお》の色を変えたでしょう。今まで子供たちの躾《しつけ》のいいことにすっかり感心させて置いたのが、これを見られてはブチ壊しになってしまう。せっかくのお客様の前へ、こういうものを担
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