と、真中に隊長が一人、大きな男根《だんこん》の形をしたこしらえ物を、紅《べに》がらの粉で真赤に染めたのを中に押立てて、その周囲に揉《も》み合い、押し合っている。
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ダアサイナ
ダアサイナ
ドウロクジンヘ
ダアサイナ
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 そうして、今、揉み合い、押し合いながら、この悪女塚の教場の方へと押し上って来る。
 しかし、まあ、本来が子供の遊戯に過ぎないのだから、ただ不意を打たれただけで、お婆さんも再び快く箸を執って、お蕎麦を食べつづけました。
「よく出来ましたねえ、このお蕎麦は。御遠慮なしにいただきますよ」
 お婆さんは、三椀まで換えて、お蕎麦の御馳走になっているうちに、例の揉み合い、押し合いの子供たちは、もはや盛んな勢いで、与八の道場の前、悪女塚のところへ押し上り、溢《あふ》れ出して、そこで前よりはいっそう馬力をかけて、押し合い、へし合いしている。
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ダアサイナ
ダアサイナ
ドウロクジンヘ
ダアサイナ
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 それは、まさしく何か風俗行事のうちの一つであって、乱暴を働きに来たものでないことはわかっているが、
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