かったが、このごろは、まず、子供たちが何人《なにびと》に対しても朝晩の挨拶をするようになっている。
与八は炉辺の講座へ坐りこんで、お婆さんを席に招じて言いました、
「お婆さん、お蕎麦《そば》が出来てるから、一ぜん食べておいでなさい」
「それはそれは、どうも」
と言って、お婆さんがいよいよ感心して、好意を受けると、
「さあ、みんな、お婆さんにお蕎麦を御馳走して上げな」
見ていると、与八の指図に応じて、子供たちが膳部の用意をする。ある者は、鍋を持ち出してお汁の吟味をし、ある者は、薪を抱えこんで来て炉の中の火を加えようとする。ある者は、流しもとへ行ってお膳と茶碗を拭きにかかる。
そうしてほどなく蕎麦をあたためて膳をこしらえ、薬味までちゃんと添えて、お婆さんの前へ丁寧にそのお膳を拵《こしら》えたものですから、お婆さんが、全く驚異の眼をみはってしまいました。
「まあ、この子供たちの躾《しつけ》のいいこと、こりゃみんな、お前さんのお弟子なんだね、恐れ入ったものですねえ」
とお婆さんは、せっかくの御馳走の箸《はし》をとることも忘れて、この大男の教育ぶりのいいことにも感心させられてしまうし、子供
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