ましたがね、お前さんは、たしかにわたしの草鞋を取り上げて押戴きましたね、草鞋というものはお前さん、足へ穿くものですよ、頭へ載せるものじゃありませんよ」
八十六
「どうも済みませんことでございました」
と与八は、お婆さんに詰問されて、一も二もなくあやまってしまいました。
「いいえ、お前さんにあやまってもらおうと思って、わたしはそれを咎《とが》め立てをするのじゃありません、あんまり、することが変だから、ちょっと聞いてみたのです」
「どうも済みません」
「済むの済まないのじゃないですよ、どうして、お前さん、あんな真似《まね》をするんですか、それを聞いてみたいんですよ」
「別段、わけも学問もあるのじゃございません」
「でも、人のしないことをするからには、何かしくらいがなけりゃならないでしょう、隠さずに話してみて下さいよ、若衆《わかいしゅ》さん」
「どうも仕方がありません、こうなりゃあ、みんな申し上げちまいます」
と与八は、白洲《しらす》にかかって白状でもさせられるように、多少苦しがって申しわけをしようとする。お婆さんはそれをなだめて、
「いや、お前さん、なにもお前さんが悪
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