お前さんは、いい人相だねえ」
と、矍鑠たるお婆さんは二度《ふたたび》繰返して言いますと、
「へ、へ、へ」
と、与八は相変らず人の好い笑面《えがお》を以てこれに答えました。
いい人相だと言われたために、はにかむでもなく、またいやに卑下謙遜するでもなく、先方の好意を好意だけに受けることを知っておりました。
矍鑠たるお婆さんは、どうしても与八の人相をそのままでは見過しはできないという執心ぶりでしたが、
「お前さんのような、いい人相を、今まで見たことがありませんよ」
「へ、へ、へ」
と与八は所在なさに、手拭で郁太郎の頭から面を、押しかぶせるようにブルッと一つ撫で卸してやると、お婆さんは、
「それじゃ、まあ御免くださいよ」
と言って、クルリと向き直り、入口へ腰を卸して早くも草鞋を取ってしまいました。
草鞋を取ってしまうと、与八の傍へ寄って来て、
「お前さん、いくつにおなりだえ」
改めて年齢を聞かれたので、与八は、また改めて答えました、
「数え年の四つになりますでございますよ」
「違うよ、わたしは、その子供さんの歳をたずねているのじゃありませんよ、お前さんの歳を聞いているのですよ」
「はあ
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