、ことごとく謝絶してしまっておりました。
 それを、近ごろになって、与八が伊太夫に頼んで再び公開のことを申し出でたのを、今度は伊太夫がすんなりと承知してくれました。その上に、設備万端の費用もおかまいなしというようなわけで、与八の前へ棟梁《とうりょう》を呼んで、自分から言いつけて工事をやらせるという徹底ぶりにまでなったのですから、与八の本望は申すまでもなく、大工さんたちも、
「わたしたちもこれで願いがかないました、この仕事は人助けのためだから」
と言って、奉仕につとめてくれたことですから、日ならず立派な公開浴場が出来上りました。
 遠近、聞き伝えて欣《よろこ》ぶことは容易ではありません。病人たちは、その噂だけで再生の思いをした者もありました。
 木の香新しい浴室の中央へ地蔵様を据えつけると、与八はそこで風呂番をつとめました。そうして湯加減を見るために、いつも最初の朝湯は与八自身がつとめました――というのは、一つはこのお湯の効目を、とかく病身がちな郁太郎というものに蒙《こうむ》らせてやりたいということも、最初の希望の一つであったのです。
 そこで風呂が沸くと、与八は真先にお毒見をするつもり
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